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スウェーデンの学生生活と大学事情

岸田 未来

 私は,2006年8月15日より2007年9月20日までの約1年と1ヶ月の間,スウェーデンのリンシェーピング(Linköpings)大学にて,客員研究員という形で研究をしています。リンシェーピング大学は,ストックホルムより電車で2時間ほどの南部に位置するリンシェーピング・コミューン(日本でいう市にあたる)にある総合大学で,学生・教員・職員数合わせて約3万2千人を抱えています。スウェーデンには13の総合大学があり,その中でウプサラ大学やルンド大学が400年もの歴史を持つ伝統な大学を代表する一方,リンシェーピング大学は,1969年に設立された相対的に新しい大学となります。今回は,リンシェーピング大学の学生生活と大学事情について,簡単に紹介してみたいと思います。

キャンパス内

リンシェーピング(Linköpings)大学
http://www.liu.se/

 私は残念ながらこちらで授業を持っていないので,日常的に学生たちと接する機会がありません。それでも図書館や構内で見る学生たちの印象は,「総じて大人びていて,多様な学生が集まっており,勉強が生活の中心にある」というものです。

 スウェーデンでは,高校卒業後,そのまま大学へ進学するのは必ずしも一般的ではありません。いったん社会へ出て数年間働くか,海外ボランティアなどの経験を積んだあとに,勉強したいテーマを見つけて大学へ入ってきた学生も多くいます。そのため,20代が中心ですが,日本ほど19〜23,24歳という特定の年齢に集中していません。さらにもっと年齢の高い学生もしばしば見かけますし,時には乳母車を引いた子連れの学生もいます。スウェーデンでは学生が結婚(同棲婚を含む)して,既に子供を持っているケースも多いそうです。子供を持つ親への政府からの補助金が,学生結婚を促している一つの要因でしょう。ちなみに,スウェーデンでは18歳くらいから,例え近くに住んでいるとしても,親と離れて暮らすことが一般的です。学費は無料なので,奨学金などで経済的に自立することが容易であるという事情もあるのでしょう。リンシェーピング大学の場合は,大学近くに学生向け住宅が集中している地域があります。一度,スウェーデン語を教えてもらっていた学生さんのアパートを訪ねる機会があったのですが,生活費を抑えるために,借りているアパートをさらに友人とシェアしており,生活は結構シンプルな様子でした。また,リンシェーピング大学が留学生誘致に力を入れているのと,留学生に対しても今のところ学費が無料であることから,外国からの留学生もたくさん見かけます。現在も,大学敷地内に大きな学生用コンドミニアムを建設中で,留学生とスウェーデン人学生が共同で居住し,生活レベルから国際交流が可能な場を作る計画だそうです。

キャンパスへの道
キャンパス地図
キャンパスメイン通り
キャンパスへ向かう道
キャンパス地図
キャンパス内メイン通り

 授業面での日本との大きな違いは,講義が集中して行われることでしょう。1ヶ月から数ヶ月単位で,一つの授業が集中して行われます。その時間帯や日程は,教員が自由に決定できるようで,教員にとっては自分の研究計画と授業計画とを,比較的自由に組み立てやすいシステムとなっています。ゼミでは共同発表が多いようで,図書館や学内で,学生のグループが集まり,議論しながら報告準備をしている姿をしょっちゅう見かけます。スウェーデンでは,いわゆる大学入試がなく,基本的に高校時の成績と,社会人経験のある場合はその内容によって入学が決まります(競争率の高い大学などは,個別に試験を課すようです)。その代わりに,授業のレポートや課題は結構ハードなようです。学生の授業への参加意識は高く,私がたまたま聴講させてもらった特別集中講義(英語)では,講義中にも学生から質問があり,講義終了後は,教員に「良い講義をどうもありがとう」と握手を求めに行く学生もいました。また学生による自治体制がしっかりしているようで,例えば学内試験での教員による学生差別をなくす方策として,学生名を伏せて試験採点を行うよう,学生代表が大学に対して要求しているとの地元新聞記事を読みました。

  では,彼らは学生生活をどのように過ごしているのでしょう? 私はまだ丸一年間をこちらで過ごしたわけではないのですが,スウェーデンの新学期にあたる9月ごろには,学内で怪獣の着ぐるみや,そろいのオーバーオールを着て,なにやらパフォーマンスを行っている学生集団をよく見かけました。これは,どうやら新入生を歓迎するときの「衣装」だそうで,特にオーバーオールは,共通の色で沢山のワッペンが縫い付けてあり,その大学のシンボルのようなものだそうです。また,スウェーデンの学生が一番羽目を外す行事は,4月末日の「ヴァールヴォーイの前夜祭」(Valborgmássoafton)と呼ばれる日となります。このお祭りは,スウェーデン人が一般的に春を祝う行事で,全国あちこちで大きな焚き火を囲んで歌をうたったり,詩を朗読したりするものです。ですが,大学町では学生が中心となって様々な企画が行われるため,この際にお酒を飲みすぎて事故や事件を起こす例が,近年非常に増えているとのことでした。前日のテレビやラジオでは,このアルコールの問題を取り上げているニュースが何度も流れていました。私は,「ニューイヤーイブ(大晦日)」のほうがもっと沢山アルコールが入るのでは? と思い,こちらの人に聞いたなら,「冬は寒すぎて外でお酒飲めないでしょう?」と言われました。確かに,マイナス20度以下にもなる冬では,さすがの若者でも外で羽目を外すことは難しいようです。その他,夏に向けて学生による行事も増え,5月19日には,リンシェーピング市内にて,学生オケーストラ・フェスティバル(Studentokestrafestivaren)が開かれました。こちらは,全国の大学から学生が集まり,それぞれ趣向を凝らしたパレードを行うというものです。「オーケストラ」と聞いて,真面目な音楽パレードを想像したのですが,実際には学生パフォーマンス・パレードと言ったほうが正しいような,「見せる」パレードでした(パレード写真)。一応風刺を利かせるのがポイントのようで,アメリカに関連した時事ネタを多くみかけました。ちょうど現在(6月中旬)は,セメスターの試験等が修了したところで,学生は一斉に夏休みに入ったようです。学内ではほとんど学生を見かけなくなりました。これからしばらくは,教員がレポートの採点で忙しくなる時期で,8月半ばにはまた新学期が始まります。

 以上,駆け足でしたが,スウェーデンの学生生活の様子を少しは身近に感じてもらえたでしょうか? 県短の皆さんも,ぜひ他の国の学生を参考にしながら,自分たちの学生生活を充実させてください。

(文責:岸田 2007/06/12)

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